インセカンズ
「くれぐれも、気のない女子の前ではしない方がいいですよ。勘違いしちゃうから」

「そこは、俺も相手見てるわけ。堅物だと思ってたアズが結構いけて、会社行く張り合いになるわ」

「だからって、今まで通りにしてくださいね」

「でも、もう知っちゃったしな」

「やめてください。もう口聞きませんよ」

いたずらな視線を寄こす安信に、ぴしゃりと言う。

「そういう、つれないとこがアズの魅力だよな。嫌われたくないから、ほどほどに我慢しとく」

頬杖を突いていた安信は、ふと目を柔らげると口元に微笑を湛える。その眼差しに、緋衣は思わず聞いてみたくなった。

「ヤスさんのそれは、意識してやってるんですか?」

「何が?」

安信は、分からないといったふうに首を捻る。

「いえ。本当に分からないならいいんです」

その角度は、緋衣が思うもっとも安信が魅力的に見える角度だ。自分が彼であったなら、きっと有効的に使うだろう。もっとも、安信自身が全く気付いてないなんて事はあり得ないだろうけど、と緋衣は思う。

「何だよ、それ?」

訝しそうに緋衣を見る安信に、ただ思わせぶりに含み笑いをしながら首を横に振った。
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