インセカンズ
「そんな時にヤスさんと出張なんて! キャッ」

アミがガラにもなく祈るように両手を組んで、途端に瞳をきらきらさせる。

ここにも安信信者がいたことに、緋衣はげんなりする。

「アミ、それ気持ち悪いし」

緋衣の心の声を代弁するように、ミチルがぼそりと言う。

「万が一でも、ノリコに取られたらダメだからね。私、アズとヤスさんって、お似合いだと思うんだけどなー。二人で並んだときの背丈とかバランスっていうの?ちょうどいいんだよね。ミチルもそう思わない?」

「アミは……。彼氏持ちけしかけてどうすんの」

「そうだよ。それに、そんな話冗談でもここでしないで」

ここは、社内の人間が集う社員食堂。曲がりに曲がって、緋衣が安信を狙っているなんて噂が立てられては、余計な気苦労が増えるだけだ。

緋衣は早口気味に小声で言うと、窘めるように目配せする。

「そんなの、ものともしないし。いざとなったら、私とミチルで守ってあげるから」

どんと大船に乗ったつもりでいて!と気にも留めないアミに、ミチルと緋衣は苦笑いする。そしてお互い目を合わせると、やれやれと首を横に振った。

同期会があった週明けの月曜日。緋衣は戸惑いはあったものの、ミチルの気遣いを安信伝えに知ったと打ち明けた。恐らくは、安信もミチルに正直に話すだろうと考えたせいもある。

ミチルが気まずい顔をしたのは最初だけで、私でよければ何でも話してくれると嬉しいとはにかんだ彼女の姿に申し訳ない気持ちになったが、亮祐の件も安信の部屋に泊ったことも話す事はできなかった。けれども、ミチルは安信が言った通り緋衣の性分を理解しているのか、詮索したりはせず、それ以上何も言うことはなかった。
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