インセカンズ
緋衣のもとに亮祐からのメールが届いたのは、接待用に予約してある割烹に向かう途中のタクシーの中だった。
残業で残っていたら取引先からクレームが入りその対応で遅くなるかもしれないので、直接マンションへ向かってほしいという内容だった。
万が一を考えて、メールボックスには合い鍵を入れてきたのでそれを使って部屋で待っていてほしいと、併せて暗唱番号が書かれていた。
緋衣は少し考えた後、それであれば、疲れて帰宅するのに気を遣わせてしまうだろうから日を改めた方が良いのではないかと提案すれば、「残念だけど、そうしてもらった方が助かる」と返信がきた。
会うのを先延ばしにしたところで何が変わる訳ではないが、彼からの返事に安堵にも似たものを覚えている事に気付く。
転勤が決まった時どうしてプロポーズをしてくれなかったのかと尋ねるのは気後れしてしまうし、それに加えて、チラつく女の影。
こんなにも臆病になってしまうのは、なかなか会えずにいるとはいえ、まだ亮祐に気持ちがあるからなのだろう。
今でもすぐに、彼が思いっきり笑ったときの左の八重歯を思いだせる。緋衣はまだ、亮祐が見せてくれたメリーゴーランドに乗っている。
残業で残っていたら取引先からクレームが入りその対応で遅くなるかもしれないので、直接マンションへ向かってほしいという内容だった。
万が一を考えて、メールボックスには合い鍵を入れてきたのでそれを使って部屋で待っていてほしいと、併せて暗唱番号が書かれていた。
緋衣は少し考えた後、それであれば、疲れて帰宅するのに気を遣わせてしまうだろうから日を改めた方が良いのではないかと提案すれば、「残念だけど、そうしてもらった方が助かる」と返信がきた。
会うのを先延ばしにしたところで何が変わる訳ではないが、彼からの返事に安堵にも似たものを覚えている事に気付く。
転勤が決まった時どうしてプロポーズをしてくれなかったのかと尋ねるのは気後れしてしまうし、それに加えて、チラつく女の影。
こんなにも臆病になってしまうのは、なかなか会えずにいるとはいえ、まだ亮祐に気持ちがあるからなのだろう。
今でもすぐに、彼が思いっきり笑ったときの左の八重歯を思いだせる。緋衣はまだ、亮祐が見せてくれたメリーゴーランドに乗っている。