インセカンズ
どのくらいの間集中していたのか、ふとモニターの時刻に目をやると、22時を回ったところだった。

緋衣はそれを確認するとエンターキーを押して資料をプリントアウトする。

他に誰もいない事をいいことに、両腕を大きく上に伸ばして伸びをしてからプリンターに足を運ぶ。手に取った書類に目を通しながら自席に戻る途中で、きゅるるるとお腹が切ない悲鳴を上げた。

お腹を擦りながら席に着いて、書類を縦に横にトントンとデスクの上で整えて四隅を合わせるとホチキスで留める。

脳裏にはアマトリチャーナが浮かんでは消え、カレーライスが浮かんでは消えていく。どちらも取り立てて大好物という訳ではなかったが、それを気に留める余裕はない。

「取りあえず、何でも良いからご飯。おにぎり、鮭、おいなりさん……」

ひとりごちていると、カタン、と物音がする。
思わずびくりを肩を震わせ音のする方へ振り返れば、帰ったと思っていた安信の姿があった。
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