インセカンズ
「お疲れ、アズ。まだいたんだな」

「漸く終わったのでやっと帰れます。ヤスさんは?」

「あの後、取引先からメシ誘われてさ。二軒付き合ってきた。アズは? もう食べたのか?」

「これからです。集中切れたら急にお腹空いてきたんで、一先ず近くのコンビニで済ませます」

「なら良かった。一旦社に戻るっていったら、夜食にお土産持たせてくれたんだよ。俺はもう腹いっぱいだし、アズにやるよ」

安信は、包みが入った紙袋をほらと言って差し出す。

「……いいんですか?」

緋衣は、戸惑いながらもそれを受け取る。

「無駄にするより良いだろ」

「じゃあ、遠慮なくいただきます」

わぁ、と顔を綻ばせると、途端にテキパキと帰り支度を始める。
デスクでの飲食は、キャップ付きのボトル以外禁止とされていた。

「ヤスさん、何か飲み物いりますか? リフレッシュルームで頂いてくるので、ついでに何か買ってきますよ」

「ありがとな。でも俺は大丈夫。もう遅いし、アズはそれ食ったらそのまま帰れよ」

言いながら自席に着く安信に、緋衣は「それじゃあ、お先に失礼します」と声を掛けると部署を後にした。

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