インセカンズ
「誰もが傷つかない方法ってあるんですかね」
緋衣が相手との距離感に拘ってきたのは、誰も傷つけたくないからだ。そして、何より自分が傷つきたくないから。
平和主義といえば聞こえが良いが、単なる臆病だという事を緋衣は知っている。何かトラウマがある訳ではないが、兄二人と年が離れているせいか、競いあったり喧嘩する事に慣れていないのもひとつの原因としてあるのかもしれない。学生時代、友人と同じ相手に想いを寄せていることに気付けばすぐに身を引いたし、欲しいものが被った時は大抵相手に譲っていた。
「それこそ、受け取り方次第だろ。誰かの代わりだって最初から分かっていても体を差し出す奴だっているだろうし、お互いに割り切っているつもりでも、どちらか一方が知らないうちに傷ついている場合もあるだろうし、相手がある以上はどんな形であれ、完璧なフィフティ・フィフティなんてありえないんじゃないか?」
完璧なフィフティ・フィフティが存在しないのなら自分が一歩引けば良いと思うのは、単なるエゴだろうか。安信のように、欲しいものは何でも手に入れてきた様な人間には、きっと緋衣の気持ちなど理解できないのだろう。
「……ヤスさんは、どうして私だったんですか?」
そんなことを聞いてどうするつもりなのだろう。緋衣は自分で言いながら思う。
「どうした? 俺の愛が欲しくなったか? アズが身体を欲しがったんだろ。俺は据え膳食っただけ。好きなように取ればいいよ。例えば、俺はずっとアズの事が好きで、弱ってる隙を突いてこのままモノにしようと画策しているとか、そういうのも面白いだろ」
緋衣には、全然面白くなんて思えなかった。安信はずっとこんな調子だ。最初から彼氏持ちだと分かっている相手にチョッカイ出すなんて悪趣味にも程があるし、社交辞令なら本当に迷惑だ。緋衣は冗談が通じない人間ではなかったが、安信が時折、真剣な顔をしたりするものだから‘彼はこういう人’と括ることもできない。自分を脅かそうとする不確かなものには最初から近付かないようにしていたのに、どうして気を許してしまったのだろう。
緋衣が相手との距離感に拘ってきたのは、誰も傷つけたくないからだ。そして、何より自分が傷つきたくないから。
平和主義といえば聞こえが良いが、単なる臆病だという事を緋衣は知っている。何かトラウマがある訳ではないが、兄二人と年が離れているせいか、競いあったり喧嘩する事に慣れていないのもひとつの原因としてあるのかもしれない。学生時代、友人と同じ相手に想いを寄せていることに気付けばすぐに身を引いたし、欲しいものが被った時は大抵相手に譲っていた。
「それこそ、受け取り方次第だろ。誰かの代わりだって最初から分かっていても体を差し出す奴だっているだろうし、お互いに割り切っているつもりでも、どちらか一方が知らないうちに傷ついている場合もあるだろうし、相手がある以上はどんな形であれ、完璧なフィフティ・フィフティなんてありえないんじゃないか?」
完璧なフィフティ・フィフティが存在しないのなら自分が一歩引けば良いと思うのは、単なるエゴだろうか。安信のように、欲しいものは何でも手に入れてきた様な人間には、きっと緋衣の気持ちなど理解できないのだろう。
「……ヤスさんは、どうして私だったんですか?」
そんなことを聞いてどうするつもりなのだろう。緋衣は自分で言いながら思う。
「どうした? 俺の愛が欲しくなったか? アズが身体を欲しがったんだろ。俺は据え膳食っただけ。好きなように取ればいいよ。例えば、俺はずっとアズの事が好きで、弱ってる隙を突いてこのままモノにしようと画策しているとか、そういうのも面白いだろ」
緋衣には、全然面白くなんて思えなかった。安信はずっとこんな調子だ。最初から彼氏持ちだと分かっている相手にチョッカイ出すなんて悪趣味にも程があるし、社交辞令なら本当に迷惑だ。緋衣は冗談が通じない人間ではなかったが、安信が時折、真剣な顔をしたりするものだから‘彼はこういう人’と括ることもできない。自分を脅かそうとする不確かなものには最初から近付かないようにしていたのに、どうして気を許してしまったのだろう。