インセカンズ
「……きれいごとかもしれないけど、誰も傷つけたくないんです。私だって傷つくのは嫌です」
「人間、生きている以上、誰も傷つけずには生きられねーよ」
安信が言っていることは正しいのだろう。けれども、緋衣には受け入れられない。
「ひとつだけ、ルールを決めても良いですか……?」
「体だけって割り切っているのに、ルールが必要か? どっちかが飽きたり結婚したら終わりってだけだろ。まあ、アズの方から飽きたとは言わせないけどな」
自分に自信があるのは安信の方だと緋衣は思う。傷付くのを恐れないから大胆になれるのだろうか。その自負心がこれまでの経験の上で成り立っているのだとすれば、一体どれだけの女性を相手にしてきたのだろう。検討もつかなかった。
「今ので、ヤスさんの過去を垣間見れた気がします」
「ワンチャンできる割には繊細なんだな。で、ルールって?」
安信が先を促す。
「……もし私がヤスさんの事を好きになったら、その時点で終わりです」
つまりはそういう事を言いたかったのだと、緋衣は気付く。言葉として声に出したことで、それまで纏まらなかった答えがひとつになる。
安信は一瞬目を見開くと、全く理解できないとでも言いたそうに首を捻る。
「はっ? なんだよ、それ。他の女から奪ってやろうとは思わないのかよ? 俺がアズを好きになる可能性は考えてないのか?」
安信が緋衣を好きになる可能性……。それは一体どれくらいの確率で起きるというのだろう。緋衣が彼に堕ちる可能性の方が何倍も現実味があるというものだ。
「私、不毛な恋をするつもりはないんです。同じ恋をするのでも楽しい方がいいし、結婚を考えられる相手としたいんです」
「そうだったな。28のアズには、甘いだけの言葉を通用しないんだったもんな。オーケー。それでいこうぜ」
安信は、緋衣の言わんとしている事を理解したようだった。
交渉成立の証の様に、安信は緋衣の顔にまっすぐ目を当てると、彼女の髪をひと房掬って唇を寄せる。
「手に負えない人ですね」
緋衣はそれに苦笑すると、シャツのボタンを外しながら安信に背中を向ける。
「手に負えないのは、アズの方だろ」
独りごちながら、安信は緋衣の肌蹴た首筋につぅと指先を走らせると洗面室を出ていく。
緋衣は、彼に触れられた箇所にそっと手を乗せる。なぞられたところが甘く疼く。ノーと言えなかったのは揺れているからだと認めざるを得ない。
未だ残る指先の感覚を振り切るように、ぎゅっと目を瞑る。
「……終わる日はきっと近いですよ。ヤスさん」
緋衣は着ていたワイシャツをはらりとその場に脱ぎ捨てると、浴室のドアを開いた。
こうして、安信とのセフレ関係が始まった。
「人間、生きている以上、誰も傷つけずには生きられねーよ」
安信が言っていることは正しいのだろう。けれども、緋衣には受け入れられない。
「ひとつだけ、ルールを決めても良いですか……?」
「体だけって割り切っているのに、ルールが必要か? どっちかが飽きたり結婚したら終わりってだけだろ。まあ、アズの方から飽きたとは言わせないけどな」
自分に自信があるのは安信の方だと緋衣は思う。傷付くのを恐れないから大胆になれるのだろうか。その自負心がこれまでの経験の上で成り立っているのだとすれば、一体どれだけの女性を相手にしてきたのだろう。検討もつかなかった。
「今ので、ヤスさんの過去を垣間見れた気がします」
「ワンチャンできる割には繊細なんだな。で、ルールって?」
安信が先を促す。
「……もし私がヤスさんの事を好きになったら、その時点で終わりです」
つまりはそういう事を言いたかったのだと、緋衣は気付く。言葉として声に出したことで、それまで纏まらなかった答えがひとつになる。
安信は一瞬目を見開くと、全く理解できないとでも言いたそうに首を捻る。
「はっ? なんだよ、それ。他の女から奪ってやろうとは思わないのかよ? 俺がアズを好きになる可能性は考えてないのか?」
安信が緋衣を好きになる可能性……。それは一体どれくらいの確率で起きるというのだろう。緋衣が彼に堕ちる可能性の方が何倍も現実味があるというものだ。
「私、不毛な恋をするつもりはないんです。同じ恋をするのでも楽しい方がいいし、結婚を考えられる相手としたいんです」
「そうだったな。28のアズには、甘いだけの言葉を通用しないんだったもんな。オーケー。それでいこうぜ」
安信は、緋衣の言わんとしている事を理解したようだった。
交渉成立の証の様に、安信は緋衣の顔にまっすぐ目を当てると、彼女の髪をひと房掬って唇を寄せる。
「手に負えない人ですね」
緋衣はそれに苦笑すると、シャツのボタンを外しながら安信に背中を向ける。
「手に負えないのは、アズの方だろ」
独りごちながら、安信は緋衣の肌蹴た首筋につぅと指先を走らせると洗面室を出ていく。
緋衣は、彼に触れられた箇所にそっと手を乗せる。なぞられたところが甘く疼く。ノーと言えなかったのは揺れているからだと認めざるを得ない。
未だ残る指先の感覚を振り切るように、ぎゅっと目を瞑る。
「……終わる日はきっと近いですよ。ヤスさん」
緋衣は着ていたワイシャツをはらりとその場に脱ぎ捨てると、浴室のドアを開いた。
こうして、安信とのセフレ関係が始まった。