ホストNo.1男子と甘い同居生活。
(どうして…、窪野さんはいつも悲しげな瞳を時折見せるんだろう)
その顔を見た刹那、胸がきゅっと苦しくなった。
窪野さんの過去なんて、私は知らないし、窪野さんも私の過去を知らない。
なら、もうそれでいいじゃないかと思った。
「美味しかったね」
「はい」
「帰ろうか」
「そうですね」
お店を出たら、また自分から手を繋いだ。
「もうそろそろ、夏が来ますね」
「そうだね」
握り返してくれた手のひらは、凄く温かかった。
家に帰ると、藍は
「おー。おかえり」
と出迎えてはくれなかった。
こういうとき、窪野さんだったら出迎えるんだろう。
ふとそう思っていた。
いつの間にか、自分の感情があふれ出しそうになってくる日を恐れるようになっていた。