メランコリック
そりゃ、あいつの「いじり」を扇動しているのは俺だ。でも、俺の思うところと別に、他の連中があいつを良い様に使うのはムカつく。


「あー、ごめんなさい!俺、今日大学の後輩たちとメシなんだった!忘れてた!」


「えー、そうなの?」


兵頭さんが俺の真っ赤な嘘を信じて、残念そうな声を出す。俺の演技ってなかなかイケるな。


「じゃ、今度でいいから、相良くんの後輩たちとのゴハン、私も一緒させてね」


あつかましいお願いを加えて、兵頭さんは持ち場の6階に戻っていった。
どんだけ、男に餓えてんだよ。
俺はため息をついて、再び藤枝に視線を戻した。

初老の奥さんとティーカップを見比べている藤枝は、うっすら微笑んでいた。
表情の乏しいあいつでも、接客時は必死に笑顔を心がけているようだ。

少しでも笑えば、あいつだって生きやすくなるはずなのに。
無理矢理じゃないと笑えない藤枝は、やはりここでは異質の存在に思える。


「ずーっと杉野のこと考えてろよ、バカ」


杉野マネージャーの前でだけ、あいつが自然に笑っていること。
きっと、俺しか知らない。
本人だって気付いていないんだろう。


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