メランコリック
年度が代わり、春がきた。
兵頭は異動になり、大井町店から四つ上の男の先輩が店舗に来た。
バイトも入れ替わり、店の雰囲気全体ががらっと変わったような気がする。

俺は何も変わらない。

汐里を襲った杉野は不起訴になった。
警察の話では、汐里が訴える意思を示さなかったそうだ。
しかし、部下に対する強姦未遂での逮捕拘留は公のことで、杉野は会社を追われた。

ざまあみろと心底思いながら、不安も感じた。
あいつ、まだ汐里を害そうと狙ってるんじゃないか。
そうだとしたら、本人の動向には目を光らせておくべきだ。

しかし、先日杉野の奥方から手紙をもらった。
なんと、杉野の妻子はあのクソ野郎を見捨てなかったようだ。

『私が更生させます。もうご迷惑はおかけしません』

そう書かれた手紙は誠意が溢れ、嘘も偽りも感じられず、納得せざるを得ない。
というか、奥方の気概に敬意を示すべきだと思った。

第一、俺ですら会えない汐里を杉野が見つけられるとは思えなかった。
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