メランコリック
「顔、上げてくれよ」


本当は抱き寄せてしまいたい。
あの身体はほんの一時だけど、俺のものになったのだ。

だけど、おそらく汐里はもうそれを望んでいない。

きっと、汐里が俺との道を選んでいたら、今の彼女はいなかった。

だからこれでいいのだ。

俺たちの関係はここが終着でいい。

汐里に一歩歩み寄る。
最後だからいいよな。

俺は汐里の美しい髪を撫で、それから離れた。

汐里が顔を上げる。
その瞳が揺れているのが見えた。
一歩後ずさった俺は、笑顔を作る。


「おまえの目、ずっと大嫌いだったけど。今はすごく綺麗だ」


俺は別れの言葉の代わりに言った。


「次に誰かを好きになったら、ちゃんと勇気出せ。信用してやれ」


汐里の瞳から、大粒の涙がぽろんと落ちた。
これ以上、見ちゃいけない。覚悟が鈍るから。

汐里に背を向け、俺は歩き出す。

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