メランコリック
「おまえさぁ」


駿吾が眉をひそめ、怒った口調になる。


「もうちょっと自重しろよ」


前よりも積極的でアクティブになった私を、駿吾は喜んでくれるけれど、今回は少し事情が違う。
私は眉尻を下げて、両手を顔の前で合掌した。


「大丈夫だから。ね、大きな池の周りを歩くだけ。お昼食べられるところもあるから」


結局、駿吾が折れる形で、私たちは都心とは反対側に向かう電車に乗った。
私の最寄り駅より何もない隣県の駅に降り立ち、二人で池を囲む山間の遊歩道を歩くことにした。


「どおりでスニーカーなんか履いてると思ったよ」


駿吾はまだ文句に近いことを言いながら、私の手を固く握って歩く。
トレッキングコースは平日の昼下がりとはいえ、何人も年配の観光客とすれ違う。

整備された遊歩道だけど、足元は落ち葉や土のでこぼこで不安定だ。
私がよろけでもしたら、駿吾は即座に引き寄せてくれるのだろう。
彼は少し過保護だ。
< 209 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop