メランコリック
凪いだ海
「藤枝サン?」
バイトの二人に声を掛けられた時、私は不覚にもたいしたことを考えなかった。
今日は彼女たちお休みだったはずなのに、用事でもあったのかな。
忘れ物とか?
そんなことしか考えなかった。
「ちょっとお時間いいですか」
面倒ごとだとわかった。
でも、ここで拒否した方が後々面倒になると思ったのだ。
言われるがままに、店の裏手の狭い路地に入った。他のビルのゴミ箱が置かれる狭い通路だ。
わざわざ入る人間なんていない。
私が何か言う前に、そして彼女たちも言葉にする前に、私の頭に冷たい水がぶちまけられた。
一瞬、何が起こったのかわからず、目を見開く。
10月の夜、私はどうやら用意してあったバケツの冷水をかけられたらしい。
今まであったことのない暴挙に、さすがに驚愕した。
これはいったい何事だろう。