メランコリック
相良はなぜか声をひそめるように、怒声を放つ。


「だって……」


「ねぇ」


気まずそうに顔を見合わせる二人に、相良はいっそう低い声を出す。


「さっき、杉野が顔出したんだよ。おまえらが路地に入ってくの見られてんぞ。これで、藤枝が髪切られたってチクってみろ。おまえら二人、やべーぞ」


相良の言っていることはたぶん嘘だ。
杉野さんは今日大阪に出張のはずだから。
しかし、それを知らない二人は顔色を変えた。
相良はたたみかけるように、二人に小声で言う。


「今なら、俺が何とかこいつを言いくるめてチクらせないようにするからさ。おまえらは杉野に見つかんないように逃げろ」


たぶん私に聞こえない体を装うために小声になったんだろうけど、全部聞こえている。
相良もわかってやっている。

単純なのか、すっかり騙された暴漢ならぬ暴女子二人は、その場から逃走していった。
投げ捨てられたハサミがからんと路地のアスファルトに転がった。
< 52 / 220 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop