メランコリック
「じゃ、お疲れってことでコーヒー奢るよ。藤枝は甘いのが好き?」


「ありがとうございます。あんまり甘くないのが好きです」


「オッケオッケ、お兄さんに任せなさい」


杉野さんは無邪気に笑って、スタッフルームを出て行った。出てすぐの廊下に自販機を設置してあるのだ。
私より10歳以上年上の杉野さん。彼が本当のお兄さんならよかったのに。

いや、本当に望むなら別なこと。
……彼が未婚だったらよかったのに。

杉野さんには奥さんも幼稚園に通うお子さんもいる。

だから、私の胸に宿るほのかな憧れは表に出してはいけないものだ。


「なに、サボってんだよ」


不意に後ろから不穏な声が聞こえた。
5階店舗に続くドアが開いて、そこに相良駿吾がいた。
私は、サボっているわけじゃない。でも、杉野さんとコーヒーを飲んでいたらそうなるのかな。
休憩にコーヒーを飲むくらいは許される職場ではあるけれど、私を許してくれる人間はいないのかもしれない。
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