メランコリック
「これも嫌がらせのひとつ?わざと付きまとうのも」


「そーだよ、悪いか」


藤枝が黙った。呆れたのかもしれない。

俺たちは並んで黙々と歩いた。
しかし、藤枝の家まではほんの10分ちょっとだ。


「セフレは諦めた。おまえ、不感症っぽいし」


アパートも間近、俺は口を開いた。
住宅街の真ん中、空き地と駐車場、その向こうに藤枝の住むアパート。


「そう」


「代わりにキスしてみようぜ」


俺の提案に、藤枝がこちらを見て眉をひそめた。


「なんで、そうなるの?」


「まるいち、おまえのことが嫌いだから嫌がることをしたい。まるに、おまえが不感症か確かめたい」


ああ、まずいな。酒が入ると、欲求がストレートになる。
こうして、藤枝と二人きり。ひとっこひとりいない住宅街の路地で。

藤枝なんか大嫌いだ。
だけど、杉野なんかには渡したくない。

キスしたら、俺たちの関係は何か変わるかもしれない。

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