メランコリック
「おまえの目、大ッ嫌い」


「生まれ持ったものだから……どうにもできない」


かすれた声で藤枝が答えた。
声を聞いたら、またキスをしたくなった。

残酷な気持ちと、奇妙な欲と、悲しみを感じた。

藤枝の目が何も映してないのは、こいつも何も持っていないからだ。
少年時代の親友と同じ目をした女。


「おまえは……、このままでいいんだろ?なんとなく仕事して、なんとなく生きる。誰とも関わらない代わりに誰にも愛されない」


「この前、そう言ったでしょ」


「おまえの喜びってなんだ?生きる意味ってなんだよ?今の仕事が、今の環境が本当に藤枝の望んだものじゃねえだろ?」


藤枝がようやく俺にはっきりとした感情を見せた。
怒りだった。


「いい加減、放っておいてくれない?なるべく迷惑をかけないように、目障りにならないように息を殺してやってるでしょう。それを明るいところに引きずり出して何?嫌いなら、それで構わない。気に食わないなら、それでいい。私の中にずけずけ踏み込んでこないで」

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