メランコリック
手
朝起きると頭が重かった。
お酒を飲んだわけではない。
父の影を感じるからアルコールは嫌いだ。
アル中の父は今、東北の療養所にいる。肝臓を病んでいる。
私は、のそのそとベッドから出て、仕事に向かう準備をする。
買っておいたパンとコーヒーをローテーブルに並べてみたけれど、食欲が無かった。
唇に無意識に手が行った。
そして、いっぺんに顔が耳まで熱くなった。
昨夜、相良にキスされた。
強引に、上向かされて、唇を重ねられた。
あんなキスしたことない。
たった一度の初体験の記憶だって、あんないやらしいキスは含まれてなかった。
私は両頬を叩いて、正気に戻ろうとする。
キスで赤くなる程度に、私もまだ女だったんだと気付いた。
相良のキスなんか気にすることじゃない。
あいつにとってはこれもいじめの延長だ。
私が我慢できなくなって逃げ出すのを待っているだけだ。