メランコリック
ああ、よかった。
二人きりの送別会。少しだけいい思い出ができた。

これで、私の片想いも終わりにできる。
一方的でかすかな恋。
叶えるつもりのない一片の癒しはこれで終わる。


ダイニングバーから出ると杉野さんが急に私の手を握った。

私はその瞬間まで完全に油断していた。
まさか、この人に限って。

しかし、握られた手の強さには有無を言わせないものがあった。


「あの……杉野さん……?」


杉野さんは答えず、私を引き摺るように歩き出す。その表情はよく見えない。
私はつんのめりそうになりながら、後に続く。
手を離してほしい。これじゃ、まるで……。


「藤枝って俺のこと好きなんだろう?」


少し歩いて杉野さんが口を開いた。
私は赤くなるより青くなった。

知られていたのか。

でも、他人の相良も気付いていた。杉野さん本人が気付かないわけはないのかもしれない。
じゃあ、なぜ今それを口にしたの?
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