我妻はかごの中の鳥
無表情の裏側のくすぐったさ
「日向さんっ!ねぇ待って、待ってよ…!」
夜の薄暗いオフィスで、彼女は叫ぶ。
残業組の俺と二人きりなのをいいことに、彼女はなんの躊躇いもなく、職場でプライベートな話を叫ぶ。
電気は四分の一しかついていない、シンと静まった空間。
彼女の叫び声は壁を揺らした。
「おかしいよ!なんでそれだけなの!?」
自分のデスクを整理しながら、後ろで喚く女を一瞥する。
茶色に脱色しすぎて傷んだ髪。
ふわふわのつもりらしいけど、ただのぼさぼさだ。
厚化粧のお陰か顔の原型は掴めないが――この階一の美女だと自負するだけのことはある、のか。
それが彼女、飯塚佳奈未だ。
格好はOLに似つかわしい、華やかなスキニーパンツ。
彼女の細さを際立てるそれは、とても似合っていた。
「…ちゃんとあなたの誘いを断ったんです。それだけも何もないでしょう」
「『ごめんなさいお断りします』だけなの!?私が一緒に食事でもって言ってるの!」
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