我妻はかごの中の鳥

◆◆◆


5階建ての本屋さんに時間通りについた。

ここの最上階の特設ステージが会場である。

一応作家様である俺も本屋との関わりは深いが、まあ公の場とかも出ないし、こういうのは初めてだったりする。


モデル兼タレント兼女優な彼女の二冊目の写真集ということで、人でごった返してた。


「うわ…」


人、人、人。

特設ステージの前は黒山で一杯だった。

特設ステージの通路を挟んで、向こうは普通に本があるなんて信じられないくらいに混んでいる。

可愛らしく色とりどりの風船でセッティングされた特設ステージには、でかでかと『桐生鈴花写真集発売記念!』と垂れ幕がかかっている。


桐生鈴花は弥生の芸名だ


ペンネームみたいなもん。

ちょっと訳あって家をばらしたくないから、芸名を使っている。


「…ごめん」

「ん?」

いきなり瑠璃が謝り始めたから、疑問に思い聞き返す。

「…お兄ちゃん、人込み…」

申し訳なさそうに器用に無表情を保ったまま眉を歪めて。

「ああ大丈夫」

心配してくれる瑠璃がかわいくて仕方ない。


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