我妻はかごの中の鳥
「瑠璃はちょっとだけ経験してんでしょ、『父さん』」
瑠璃の『父さん』は皆無じゃない。
本当に、少しだけ。
経験しているらしい。
「……でも、5歳の時に死んじゃったから」
ケーキを切り分けながら、そう答えた。
抑揚がないから、たぶん悲しくもないんだろう。
「そっか。思い出もなんもないよねー」
「…」
こくんと頷く。
相変わらず無表情で、後ろの席の女の子とは真逆だった。
満面の笑み。
――俺らが家族団らんを経験していたら、瑠璃はもう少し笑ったのかもしれない
もう少しワガママも言って、感情を表に出して。
人見知りもせずに好きなだけ友達を作って、一人で外に出掛けて。
「……」
ふと、視線を感じた。
夜空みたいに輝く瑠璃の瞳が、俺をじっと見つめてる。
「どしたの?」
ゆるゆると首を振り、なぜか俺を人差し指で指差した。
「…お兄ちゃん、今家族について考えてたでしょ…」
「あ、ああ、うん」
なんでそんな強気なんだ。
やはり、いまいち感情が読めない。