我妻はかごの中の鳥
「私…」
こんなに可愛いのに、と言いたげな視線に苦笑する。
いや、俺…もっと可愛いの飼ってるから。
脳裏にそれを思い描くと、ついにやりと顔がほころんでしまう。
今ごろ何をしてるのか。
8時を過ぎている。
たぶん俺の帰りの遅さにやきもきしているだろうな。
それか、もう待つのに飽きて、本とか読み始めてたりして。
テレビは恋愛モノが苦手だから、この時間帯はないだろう。
「ごめんなさい、それでは」
「あっ…」
す、とごく自然な動作で逃げる。
ああもう、早く帰らなきゃ。
帰らなきゃ、彼女――
「(寂しくて死ぬのはウサギか)」
実際は死なないらしいけど。
愛を与えないと死んでしまう、可愛い彼女を浮かべる。
浮かべたらあいたくなったから、急がなきゃ。
駅に向かう足が自然と早まる。
あの家まで、あと30分くらいだ。