我妻はかごの中の鳥
いると思い、とたんに焦る。
辺りを見渡すが、あの小さい白髪の姿はない。
どこかの裏路地か?
いや、この近くは大通り一本。
建物はあるけど、入っちゃえば音楽は聞こえない。
なら、一体――
「…っ!」
あの人だかり。
瑠璃が見えない場所は彼処くらいだ。
20人くらいがこぞっているそこに急いで入り、人を割っていくと。
黒いニットで隠しているつもりらしい白髪が見える。
電柱に手をつけ、知らない叔母さんに背中をさすられていた。
「大丈夫?今救急車呼んだからね?」なんて声も聞こえてきた。
瑠璃は一言もはっさず、はあはあと息をあらげるだけ。
「瑠璃っ!」
焦燥感のまま、瑠璃に駆け寄る。
「彼氏さん?なんかこの子具合が良くなくて、救急車呼んだんだけど…」
「だ、だめっ」
救急車なんて呼んで病院にでも行ったら、間違いなく死んじまう。
「かかりつけの病院へいますぐ担ぎ込むんで、大丈夫ですっ」
「え…でも」
「近くに車があるんで!本当に!」
「あらそう?」
「ありがとうございましたっ」