我妻はかごの中の鳥
◆◆◆



『私、日向く――いえ、歌月の彼女です』


「え…?」


朦朧とした頭にガンッと響く言葉。


『婚約だってしてるんです。すみません、別れてくれますか?』

「わ、たし…は、妻で」

『愛がなければ、紙切れの効力なんてたかが知れてるでしょう?』


ああたしかに。

その通りだ。



歌月に私は似合わない。



歌月には、もっともっと相手がいたはずだ。

私の存在が、彼の世界を小さくしている。


いつも思っていた。


駕籠の中にいる私の世話に明け暮れ、迷惑させていると。


いつも思っていた。


私に幸せは似合わない。

否、幸せを背負ってはイケないのだ、と。



たくさんの人を傷つけて、その上で成り立つ幸せなんていらない。



『歌月の手を煩わせたくないから、会いませんか?』



「…はい」

『私、歌月とおんなじ職場なんです。だから、その近くで会いません?昼休みなら抜けられるから』

「…わかり、ました」

『じゃあ1時に会いましょう?』
「…はい」

『喫茶店の場所は――』


ほぼ放心状態で、メモだけ取る。


どこか覚悟をしていた自分に気がついて、軽く笑った。
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