月の恩返し


月は、仕事場の真ん中で静止した。


「わたしが月だという証拠をお見せしましょう。ほら、窓から空を見てください」


言われたとおりに、窓から空を見上げて、おれは、どひゃあと大声をあげた。ついさっきまで、夜空に浮かんでいたはずの月が、消えていたのである。そのせいで街は、暗闇に包まれていた。


これは、つまり、本当に月がうちに来たということか?


おれは、頭を無理やり落ちつかせて聞いた。


「と、とりあえず、わけわからないけど、あんたが月だというのはわかった。それで、その月が、おれに一体何の用があるんだ?」


すると月は、球体をねじまげておじぎをした。


「実はわたし、あなたに恩返しをしにまいりました」


「恩返し?」


「はい、あなたが出版してくださったわたしの写真集のおかげで、世間では月がブームとなり、わたしは一躍注目を浴びるようになりました。それがとてもうれしかったのですね。これは恩返しをしなくてはいけないと思い、こうしてやってきたのです」


何だこの状況は?頭が痛い。



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