月の恩返し
「恩返しって、何を?」
「それは」なぜか急に、声が色っぽくなった。「わたしはお金なんて持ってませんし、昔話のツルのように、ハタを織ることもできません。・・・・・・あるのは、この熟れた体だけ」
「・・・・・・まさか」
ものすごく嫌な予感がした。
月は熱っぽくささやいた。
「そう、そのまさかよ。・・・・・・男と、女のこと」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!いや、無理だ!それは絶対に無理だ!だいいち、人間と、月が、そんな、どうやってやるんだ!無茶だ!不可能だ!」
あとずさるおれ。
月は、そんなおれを壁際にまで追いつめた。球体の表面が、赤くなっている。
「ダメよ!わたし、覚悟してきたんだから!ああ、思い出すわ!あなたがわたしを撮影してくれたときの、真剣な眼差し!あの鋭い視線を思い浮かべながら、わたしは毎晩、クレーターを熱く濡らしていたのよ!」
月は強い力で、おれにおおいかぶさってきた。あっさりと倒され、悲鳴をあげるおれ。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」