多分、君は僕のことが嫌い。



ガラガラガラ……。


「ほら、席つけー。HR、始めるぞー。」


先生が教室に入ってきて着席を呼びかける。


本とミュージックプレイヤーを片付け、
窓の外に目を向ける。


空の青が目に染みる。


春とはいえど、今日は日差しが強い
ようだ。


近くの公園には散り始めた桜が揺れている。


その下のベンチで二匹の猫は、お互いに毛繕いをしながら、体を寄せあっていた。



"平和だ…。
このまま空に溶け込めたらいいのに…。"


そんなことをぼんやりと考えていた。


「今週末は、遠足だからなー。
体力づくりも兼ねてるからかなり歩く
ぞー。」


という先生の言葉が耳に入った。


"遠足か…。めんどうだな…。
また囲まれるんだろうなぁー…。"


昔から遠足という行事はあまり好きでは
なかった。


『親睦を深めましょう』
『みんなで仲良くしましょう』


小学校の先生は作り笑顔を浮かべてそう言ってた。


そんな言葉をつかう先生の考えが、
子供ながらに不思議だった。


「ねぇ、かあさん。
なんで、みんなとなかよくしなきゃ
いけないの?
べつにぼくはなかよくしたくなんて
ないよ。」


低学年の頃、そう母に言ってしまったことがあった。


母はものすごく悲しい顔をしたけれど、
そのあとすぐにいつもの優しい顔に
戻って、


「いつかきっと綾くんにも分かるわよ。
ものすっご〜く大切な人が、
あなたにもきっとできる時がくる。
そしたら、分かるわ。」


僕の頭を撫でながらそう言ったことを
今でもよく覚えている。


"母さん、ごめん。
僕は未だにわからないよ。"


多分、僕には一生理解できないだろう。


だって、僕の心が動くことはきっともう
ないから…。

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