多分、君は僕のことが嫌い。


彼女は意外にも怒っている様子はなく、
むしろ自分が悪いと本当に思っている
ようだ。


「本当にごめん!
ぶつかったこともだけど、その…
わざとじゃないにしても、キスしちゃったことも…。」


僕は本当に悪いと思っていた。


だから、誠意をこめて謝った。


「頭を上げてください…!」


土下座のような体制になっていた僕に、
彼女は慌てた様子でそう言った。


「本当に大丈夫ですから。
ぼーっとしてたこっちも悪かったん
ですし…。」


立ち上がり汚れたスカートをはたきながら、キスの事なんて気にもしてないという感じでそう言った彼女。


"女の子にとってキスはすごく大事な
ものなんじゃないのか…?"


意外な反応にさらに混乱してしまった。


「本当に気にしないでください。
お互いに忘れればいい話でしょう?」


もう一度しゃがんで、まだ頭を上げない僕の顔を覗き込んできた。


頭を上げると彼女の顔が目の前にあった。


長いまつげで縁取られた二重の大きな瞳と目が合う。


曇りのない大きな瞳からは、強い意志が
感じられた。



そんな彼女の瞳が僕には眩しすぎて、
弱い僕はふいっと目をそらしてしまった。


「そ…うだね。わかった。
じゃあ、お互いに忘れよう。」


「はい。そうしましょう。
じゃあ、私は急ぐので。」


さっきまでのことなんてもう忘れたかの
ように冷静に返し、彼女は走り去って
行った。


そんな彼女に僕はそれ以上何も言えず、
陽の光を浴びて輝く美しく長い黒髪を
揺らしながら走る彼女を見送った。


「すごく変わった子だったな…。」


女の子らしくない子というか…。


見た目はすごく女の子らしいのに、
中身がサバサバしすぎてるというか…。


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