甘い時 〜囚われた心〜
「な…なんで…」

倒れそうになるのを壁にもたれて支える。

「なんで…桜…華」

「何をしている」

急に消えた雛子を晋也は追ってきていた。


「なんで…」

雛子は晋也の胸を掴んだ。

潤んだ瞳が晋也を見上げる。

「なんで!…なんで桜華を呼んだんですか?」

「何を言っている?桜華君は祐希奈の婚約者だ。来るのは当たり前だろう?」

冷たい瞳と声。

自分の服を掴んでいる雛子の震える手を外す。

「早く来なさい。それとも…桜華君を困らせたいのか?」

「っ…」

桜華を困らせる…

神楽との関係がなくなる…

仕事がしにくくなるのは分かっていた。

震える体と、溢れそうな涙。

上を向き涙を我慢して、会場へと足を踏み出した。
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