甘い時 〜囚われた心〜
会場に戻ると西條は、雛子を心配する素振りも見せず、招待客と話し込んでいた。

その側に行く。

招待客が満面の笑みで雛子を迎える。

「西條君、こんな綺麗な婚約者とは…幸せ者じゃないか!」

「ははは…まったくですよ!神楽さんから、この話をいただいた時は夢かと思いました」

2人の話を、作り笑いで聞きながら、無意識の内に桜華の姿を探していた。


「どうぞ?」

いきなり後ろから出されたグラス。

振り返ると、懐かしい人がいた。

「オレンジジュースだけどな…」

柔らかく笑う桜華に会場がシーンとなった。

「あ…ありがとうございます…」

受け取る手が震える。

桜華の顔も見れない。

一瞬触れた手が熱くなるのを感じた。

西條が桜華を見て目を輝かせた。

「桐生院さん!」

嬉しそうに桜華に話しかける西條の横で、どうしたらいいのか分からず立ち尽くす雛子を、話を流しながら聞き見つめた。

「雛子ちゃん!綺麗!ね?桜華さん!」

桜華の腕に絡まり、笑う祐希奈。

「ありがとう…」

そう言うので精一杯だった。
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