甘い時 〜囚われた心〜
「ねぇ、桜華…」

鈴音の手が桜華の腕を掴んだ。

「なんだ?」

鈴音の見ている方を見る。

西條の横で無理矢理笑う雛子が見えた。

「雛子…顔色悪い…よね?」

会場の証明に目を細め、辛そうに笑う雛子。

顔が青白くなっていた。

気付いた時には、人混みをかき分け、雛子の側に足を急がせていた。

次の瞬間、雛子の持っていたグラスが落ち、オレンジジュースが床に広がった。

そして、そのまま雛子自身も足の力を失い、崩れていく。

「雛子!」

ガッシリと崩れかけた雛子の体を支える。

「桜…華…」

間に合った…ホッと息を漏らした。

「大丈夫か?」

会場中がざわつき始める。

久しぶりに触れた愛しい人に桜華の体が熱くなる。

もう我慢の限界だった。

抱き上げる。

「桜華さん!」

祐希奈の声にハッとして雛子は桜華の胸を押した。

「降ろして…もう大丈夫だから!」

「桐生院さん、僕が運びますから」

西條が雛子に触れようとした。

「触るな…」

低い声に、西條の手が止まる。

「雛子に…触るな…」
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