甘い時 〜囚われた心〜
赤ちゃん…?

私の中に…?

ここに…?


いる…




自然と下腹部に手が触れた。

まだお腹はペッチャンコで、言葉だけでは実感がない。


「実感持てない?」

雛子の気持ちを察したのか智則が聞いてきた。

「…はい…」

「でもね、いるんだよ。君のお腹に。…だから、君が早く答えを出さなきゃならない…」


とくん…







一瞬、赤ちゃんが動いた気がした。

雛子の気のせいだが、確かに赤ちゃんはいるのだ。

雛子は下腹部を優しく撫でる。

「先生…私…産みたい…」

途切れそうな声とは逆に、目には強い意志が見えた。

「そう。相手には?」

「…」


「雛子?」


雛子は困った顔をしている。

「桜華に言わないの?」

「相手は桜華君だったのか…桜華君に出来た彼女とは君か…」

智則が軽く頷いた。

「まだ…言えない…」

「雛子?」

「今は、言えない…だって私のことで大変なことになってる…まだ…言えないよ…」

「でも!」

雛子は鈴音の手を握って懇願した。

「お願い!言わないで!…言う時は私から言うから…もし、桜華が無理だって言うなら一人でも育てる!」

< 130 / 175 >

この作品をシェア

pagetop