甘い時 〜囚われた心〜
帰りがけ、車に乗り込む雛子に智則がいった。

「あまり激しい運動はダメだよ。少しでも具合が悪くなったら、すぐに来なさい。できるだけ食事も取るように」

「はい…本当にありがとうございました…」

頭を深く下げてから、車に乗り込み去っていった。


それを見送った後、鈴音に言った。

「できるだけ、様子を見てあげてくれ」

「うん!」








院長室に戻った後、智則は部屋に備え付けられた電話を手に取り、どこかにかけ始めた。

「あぁ…私だ…」

『久しぶりだな…いきなり、どうした?』

受話器からは低音の男性の声が流れる。

「今、桜華君と雛子ちゃんが来ていたよ」

『……そうか……じゃ、婚約は、また破棄だな…』

少しだけ声が高くなった。

「こうなること…分かってただろ。お前…」
『…さぁ…?…だが、このまま、あの子を取り返しただけなら、意味がない…』

「まったく…お前が親なんて、俺は願い下げだね…百合矢」

受話器からは笑い声が聞こえた。

智則の話し相手は、桜華の父・百合矢だった。

『また、帰ったら連絡するよ。桜華の件ではいろいろ迷惑かけたかな…』

「あぁ…また」
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