無垢な瞳
「そうですか」

僕はなんだか他人事のように思えた。



「そうですかって、あなた驚かないの?」

女は苛立っていた。

一瞬でも僕に対して優しさを見せた自分に対して裏切られたと感じたようだ。



父には僕以外にも子どもがいたということか。



「わかりました。電話番号は?」

僕は驚くほど冷静に電話の相手に応対していた。

「言わなくてもわかっているわ」

女は馬鹿にしたように笑った。



僕はバカ正直に、女に言われたことをメモに書きとめておいた。

女は母に伝言するように言っていたが、今の母にそういうことを伝えるべきでないことは子どもながらによくわかっていた。



電話を切ったあと気がついた。

この部屋は、恐ろしいほどなんの音もない。

夕刻を知らせるカラスの鳴き声に僕は救われる思いでいた。
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