無垢な瞳
よくよく考えたあと、僕は父に電話することにした。
 
これは父自身の問題だ。

本人に直接確認した方がいい。




「お父さん?」

「ケンか?」

父の、低い、ゆったりとした声が好きだ。

僕はその響きを味わう。

「女の人から電話があって」

父が息を呑んだのがわかった。

「ずるずるとこんな生活をしていてもしょうがないし、電話をかけてほしいって」

僕はできるだけ冷静に女からの電話の内容を他人事のように伝えようと考えていた。

父はゆっくりため息をついた。

「ごめんな、ケン」

「なんであやまるの?」




謝られるのは辛い。

謝るということは、その電話の内容が事実だということを認めたということだ。

僕は父に否定してほしかった。

しかし、それは叶えられそうにない。
< 12 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop