無垢な瞳
このとき島野は重大な問題を抱えていた。

この問題に押しつぶされそうで、ぎりぎりの線で生きていると言っていい。

仕事に来ることが、その問題から逃げる唯一の手段だった。

家に帰れば、またその問題と向き合わなければならない。

島野は何かと理由を作っては職場に残るようになっていた。



そんな時期にふってわいたような冴子の妊娠だった。



とにかく全てから逃げたかった。

その気持ちが島野を考えられない方向に後押しした。

「冴子、俺と逃げないか?」

島野は窓の外を見ながらこう切り出した。

人間追い詰められると信じられない決断をする。

今、まさにそのときだった。

冴子に迷いはなかった。

「島野さんとだったら、どこでも行けるわ」
< 129 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop