無垢な瞳
遠くで「走れメロス」のセリフが聞こえる。

「俺さ、学校なんてどうでもいい。友達なんてどうでもいい。長い人生のなかで、きっと一瞬の出来事だろうし、だからどうでもいいって思ってた。でもコウと出会って‥‥。
それまでハンディキャップのある人たちは、自分と違う世界にいる接点のない全く関係のない人って思っていて‥‥。でもね、そういう存在だったコウが今、俺の中のスターなんだ」

ケンは初めてコウに会った日のことを思い出していた。

あの音楽室で僕らは運命的な出会いをしたんだ。


「俺の中のどうでもいいものがダイヤモンドに変わったときから、俺の中の俺が変わってきて‥‥。それまでどうでもいいと思っていた、学校も友達も、どうでもよくない、大切なものに変わってしまっていた」

ケンは唇をかみ締めた。

「今、ここにいるみんなが俺にとって本当に大切な友達で。でもこんなこと、前だったら恥ずかしくて口が裂けても言えなかったんだけど、このまま言わないでみんなと別れてしまったら、たぶん俺は一生後悔する」

ケンは一人一人の顔を見つめていた。

いつのまにかケンの緊張の糸は十分ほぐれていた。

これだ‥‥この感覚だ。
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