無垢な瞳
タンポポのコウがここまでの演奏をするものかと、誰もが驚きを隠せなかった。

ケンはいい気分だった。

自分が見つけた宝物をみんなに見せびらかしているような気持ちだった。



俺がいちばん先に見つけたんだぜ。

すごいだろ?



あの日、音楽室で僕はコウに出会った。

ハンディキャップをもったコウが耳で聞いただけでケンのピアノをそっくり弾いてみせたときの衝撃が今またこみ上げてきた。

あのときの衝撃は今も変わらない。

コウがピアノを弾くたびにケンの心を揺さぶる。



歌が入った。

みんなの声が聞こえる。

伸びやかで体育館いっぱいに響いている。

ピアノの向こうに見えるみんなの顔。

堂々としていて、気持ちがいいほどだ。



そしてアキ。

アキにはいっぱい借りができた。

君がいなかったら、こんなふうにはできなかったよ。

そんなふうに頭の中で考えていたら、指揮棒を振るアキがこちらを向いてウインクした。

まさか以心伝心?

ケンが顔を赤らめたのをアキは見逃さなかった。
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