無垢な瞳
父と芝山先生は顔を見合わせていた。

そして二人とも、大の男が、大声で泣いた。

「ケン、母さんからのメールに『私はもうだめだからケンのことよろしくお願いします』って書かれていたんだ。だから父さん、仕事に行く前におまえたちのアパートを訪ねたんだけど、ドアが開いていて‥‥」

そうだ、確か僕は母さんがすぐ起きてくると思ったから鍵をかけないで家を出た。

「父さん、家に入ったら、おまえが用意した朝食と手紙があって‥‥。母さんの部屋を開けたら‥‥」



時間が止まってしまったのだろうか。

父さんの動きがストップモーションのように見える。

父さんや先生が泣いているのに、僕はなにも感じない。

どうして二人はこんなに泣いているの?



「母さんは自分で首を吊って‥‥」

「島野さん、何言ってるんですか。ケンくんはまだ小学生なんですよ」

芝山先生が父さんを遮った。



母さんが首を吊ったって、母さんは自殺したっていうの?

どうして?

でもありえないよ。

だって、母さんは昼前に体育館に確かにいたんだから。
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