無垢な瞳
「ケン‥‥」

ケンの母、島野冴子は寝息を立てて布団にくるまる息子の額をいとおしそうに撫でた。

「ごめんね‥‥」

そして息子の手を握った。

「いつの間に、こんなに大きくなっちゃったのね」

柔らかな幼児の手がいつの間にか、関節の太い大人の手に近づいたのか‥‥。

冴子の手の大きさを越えてしまっていた。

「ふふ、もうすぐ中学生になるんですもの。当たり前か‥‥」




冴子は目を閉じた。

小さなケン、そして傍らには島野がいつもいた。

いつも人目をしのぶように生活していたけれど、3人が一緒にいられれば十分だった。




島野が遠くを見るような仕草をするたび、冴子はいつも不安になった。

冴子にはわかっていたから。

島野がどうして冴子のもとにやってきたのかを。

そして島野がそのことをいつも悔やんでいたことを。

冴子は怖かった。

いつか、いや明日にでも島野が元の家族の所に戻ってしまうのではないかと、心が休まるときはなかった。

そしてずっと抱えていた恐怖が現実のものとなってしまった。
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