無垢な瞳
「ケンちゃん、あんた冴子の部屋、使いなさいね」

祖母が冴子の部屋に案内してくれた。

南向きの洋間で、陽がよく入るいい部屋だ。

冴子が出て行ったときのまま手を入れていないようで、そこだけが時間が止まっていた。

ジャニーズのポスターが貼られ、棚にはレコードが何百枚も並んでいる。

「レコード?」

「今の子には珍しいでしょ。プレーヤーもあるからつかえるんよ」

祖母は棚の中をごそごそ探した。

「あったわ、これがあの子のお気に入りだわ」

祖母は埃を払いながらレコードを一枚出してきた。

「これは‥‥」

「あら、ケンちゃん知ってるの?」

カーペンターズのアルバムだった。

祖母はレコードに針を落とした。

「あの子がいちばん好きだった曲ね」

冴子の部屋に「トップ・オブ・ザ・ワールド」が流れた。
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