無垢な瞳
母はバスタオルを頭に巻いたままペディキュアの手入れをしていた。

「で、アキ、今日はいいクリスマスイブだった?」

母は離婚してから綺麗になった。

「そうね。それなりに意義深かったかな」

「やあねえ、意味深な言い方!」

母は大げさに茶化してみせた。

「なんにもプレゼントはなかったけどさ」

「パパサンタは無力ってわけね」

「仕方ないでしょ、破産しちゃったんだから!」

「わかってるわよ」

アキはぷいとそっぽを向いていた。

「だからさ、ママサンタってのはどう?」

母はアキの目の前にチケットを2枚振りかざした。

「母さん?」

母が手に持っていたのは新幹線のチケットだった。

十二月二十八日のはやてのチケット。

「冬休みの母子水入らずの青森旅行なんてのも悪くないと思うけど」

ペディキュアの手入れも終わったらしく、母はネイルのケアに入るところだった。

「母さん!」

アキは母の背中から抱きついていた。

「ちょっと、爪やるとこなんだから。失敗したらあんたのせいよ!」

「いいでしょ。こうしたい気分なんだから」

アキは母の背中から離れようとしなかった。

「そうね、こういうのもたまには悪くないわね」
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