無垢な瞳
「ありがとう、アキちゃん。助かったわ」

コウの母は大きなため息をついた。

「どうしたの、悪徳商法?」

大真面目なアキの顔を見て、コウの母はおなかを抱えて笑った。

「やだあ、アキちゃんたら」

「ちがうの?」

「でも、悪徳商法の方が気が楽かも……」



電話の相手は、芸能プロダクションのスカウトだった。




あのクラス発表のことが後日地元の新聞に載った。

「ハンディキャップをもつ天才少年」

そんな見出しが躍った。



それ以来コウは一躍有名人になってしまった。

もちろん、そんなこと当の本人はおかまいなしだが。



しかし、問題はそのあとだった。

噂を聞いたテレビ局が取材にきたり、雑誌社がきたり、コウの母はてんてこまいだった。



そして一息ついた頃から、スカウトと名乗る男が数名渡瀬家にやってきた。

「コウくんの才能を伸ばしましょう」

「ピアニストとしてうちの事務所に!」



まったく縁のない世界だった上に、業界特有の押しの強さから、コウの母はすっかりまいっていた。





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