無垢な瞳

上野駅からアキと幸は新幹線はやてに乗り込んだ。

幸はガイドマップと弁当を買い込み、すでに青森旅行を楽しんでいた。

「やっぱ、温泉よねえ。雪の中の温泉て憧れる!」

幸は女子高生のようにはしゃいでいる。

一方アキは、ケンとの再会に緊張していた。

本当は幸にもう少し静かにしてほしいのだが、幸は大切なスポンサーだ。

あれこれ注文するわけにもいかない。

それに3時間近く禁煙を強いられるわけだから、少しでも気を紛らわせたいという幸の気持ちもよくわかる。

アキは幸の話に適当に相槌を打ちながら、ケンとの再会に思いをはせていた。

「本当はビールでも飲みたいんだけど、八戸についたらレンタカーを借りる予定だから仕方ないわよね」

幸は地酒ガイドを読みながら、生唾をごくんと飲み込んだ。




東京から離れるに従って、家はまばらになっていく。

そのうち畑や森など、アキにはめずらしい風景が広がっていった。

やがて、辺り一面銀世界に変わっていった。

昼過ぎに八戸に到着したときには雪景色が二人の目を奪った。




「いやあ、寒すぎる!」

ホームに降りた途端、あまりの寒さに二人は震え上がった。

あわてて持ってきたダウンを着込むが下半身の寒さといったらしびれるほどだ。

「本当に寒いですね」

幸が近くにいた地元の人らしき人に話しかけると、こう返事が返ってきた。

「八戸は滅多に雪が降らないんだけどね。今日は珍しく雪化粧だわ」

「ちょっと、私たちついてるのかついてないのか、どっちなのかねえ」

幸はアキの耳元で悪びれた。
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