無垢な瞳
レンタカーの営業所に行き、予約していた車を出してもらう。

「東京の方ですよね。雪道大丈夫ですか?」

心配そうに店員がたずねた。

「大丈夫も何も、初めてだから見当もつかないわ」

幸は人ごとのように言い放ち、「念のため、雪道で注意することを教えといて」と店員に頼んだ。

アキの心配をよそに幸はドライブを楽しんでいた。

「ねえ母さん、あたし、母さんが運転できるの知らなかったよ」

アキの家には車などないから、幸がまさか運転免許証を持っていることすらアキは知らなかったのだ。

「そうね、たまに仕事で運転することはあるけど、滅多にないからねえ。私も心配だったんだけど、オートマだもんね。思ってたより簡単よ!」

幸は鼻歌を歌いながら、ラジオをつけた。


「安全運転よ、母さん」

幸はアキの言葉に返事もしないで、「やっぱカーナビは便利よねえ」とハイテクに感心しきりだった。

幸いなことに車道にまでは雪は積もっていなかった。
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