無垢な瞳
第六章

八年後‥‥、東京。



「アキ、あんた私のジャケット勝手に着ないでよね!」

幸がクローゼットを開けてキャンキャン騒いでいる。

「私が着たほうが似合うからジャケットも喜んでいると思うけど」

アキは朝食のコーヒーを飲みながら新聞に目を通す。

アキの言うとおりだった。

アキの背は当の昔に幸を追い抜き、プロポーションのバランスのよさは母親譲り、いやそれを上回っていた。

「まったく、あんたって‥‥」

幸はあきらめて別のジャケットに袖を通した。

アキの向かいに座って、コーヒーをすする。

「あんた、今日の予定は?」

アキは幸の苛立ちなど気にもとめず、平然と新聞をめくる。

「午前中は大学。午後からオフィスに出て、新しい事業のためのスタッフをそろえようと思っている」

「ちょっと、私社長なんだからね。ちゃんと敬意をもって接してちょうだい。‥‥で、新しい事業って、何?」
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