無垢な瞳
「ええ、言ったわ。よく覚えてる。あの時言ったことは本心よ。今だってその気持ちに変わりはないわ」

コウの母はまっすぐアキを見つめる。

「よかった」

アキの表情がほぐれる。

「私さ、もしもおばさんに『そんな約束したっけ?』って言われたらどうしようって思ってたのよ」

アキは両手で顔を覆う。

「私はね、あのときおばさんが言ったことをずっと実現させようって思ってきたの」

「アキちゃん……ありがとう」

「そんな、お礼を言うのは私のほうだよ」

コウの母は首をかしげる。

「だってね、私たちはコウに、そしておばさんに出会わなかったから、こんなふうに強くなれなかった」


そう。

あのとき背中を押してもらえなかったら……。

あのとき自分の気持ちを受け止めてもらえなかったら……。

今の私はたぶんいない。


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