無垢な瞳
「9月からケンはK大学に編入するの」

「それじゃあ、ケンくんは……」

「そうよ、おばさん。今は日本に帰ってきてるの」

ケンの母は信じられないという顔をして目を見開いている。


「実はケン、もうすぐここに来るのよ」



夏の終わりの風景は、これから始まる未来の物語の第一歩だった。

髪をなでる涼やかな風が私たちの出発を祝福してくれるかのよう。



「ここは原点よ。ここからまた新しい一歩を踏み出すの」



アキは澄み切った瞳をピアノに向ける。

ピアノがなかったら私たちは結びつかなかっただろう。

今は確信がある。

言葉なんていらない。

私たちをつなぐ運命の糸には、すべてを乗り越える強さがある。

そしてその糸は自分たちの手で紡いできたという自負がある。





八年という時間で私たちは色あせたりなんかしない。



そして――。



八年という時間で私たちはそれぞれの道を見出した。






「お邪魔します」


遠くで声がした。
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