無声な私。無表情の君。
ボールの弾む音が鳴る体育館。
そこへ場違いと言う言葉が似合いすぎる私。
最初は教科書でも読んでおこうと思っていたのだが、思いの外、ボールの音が気になるので練習を見せてもらうことにした。
って言っても私が勝手に見てるだけだけど。

そこへ1人の男子生徒がギャラリー沿いに来て見上げて話しかけてくる。

「ん~と、君、誰?」

【3-A の古田です】

すかさずメモ帳を見せる。

「あ〜!古田さんね。練習見たいなら下で見れば?」

最初の「あ〜!」の意味はよくわからなかったが、この距離感で私の文字が見えるとは、彼は中々視力が良いらしい。私が保証しよう。

【いや、でも邪魔になるだけですし】

戸惑って邪魔と漢字で書いてしまった。

「いーんだよっ!さ、降りて!降りて....って、っんが!」

思い出した。岡崎君だ。1年の時、一緒のクラスだった。急に後頭部にボールが当たって悶絶している。

「練習しろ。古田さん困ってるだろ」

どうやら、ボールは故意に当たったようだ。当てた犯人は吉川君だ。

「いたた........」

オロオロする。どうしたらいいかわからない。

「でも、真剣に見ててくれたからさぁ~、少し位近くで見せてあげたら?」

そんなに興味があったスポーツではないが、見てみると案外楽しそうだった。そのせいで、少しばかり真剣に見ていたらしい。
自分では自覚がなかった。

「.........って岡崎が言ってるけど、どーする?」

コクコク

「なら、下降りて見てて。ほら、練習に戻るぞ」

「ほいほーい。んじゃ、古田さん」

吉川君に引っ張られながらヒラヒラと手を振ってくる。私も笑顔で振り返しといた。
取り敢えずね。

でも、考えてみると意外。
岡崎君って1年の時は1回も喋った(筆談した)ことなかったから、今日初めて会話(的なこと)をして新鮮だった。案外、優しいのかも.........。
って、思いもした。今日はいい収穫ができた。

今までの私だったら、きっと自分を見捨てた最低な奴。
とか思ってたかもしれない。
けど、そんなのは私の勝手な言いがかりに過ぎない。
彼には本当に申し訳ない事をした。

ごめんなさい。そして、ありがとう。岡崎君。
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